未完成発明の判例探し


実務上は未完成発明であるという拒絶理由が来たら、特許事務所も、知財担当も顔が青ざめると思います。

チェックしていなかったのか?クレームの補正等の対応策はあるのか?etc.,

少なくとも自分が受け持った中で特許法29条1項柱書きの未完成発明を持って拒絶された記憶は有りません。

(CS関連発明で、コンピュータ、人為的な行為に関する柱書違反は有りましたが、、、)

当事者でない審査官が未完成だとここまで踏み込み言うのは難しいのでは無いかと思慮します。

出たらリカバリーのためにまずは面接と名乗ってインタビュー、詰問?になるかと。

よって未完成発明ではなく記載要件違反で36条がほとんどを占めます。

 

さらっと見た限り判決の中でも「未完成発明」と認定している例は少ないようです。

 

まずは、未完成発明をもとに29条1項柱書で拒絶された例です。


H17. 1.18 東京高裁 平成15(行ケ)166 特許権 行政訴訟事件

 「本件発明の技術内容(技術手段)によってその目的とする技術効果を挙げることができるものであることを推認することはできないのであるから,本件発明とされるものは,発明として未完成であり,特許法29条1項柱書きにいう「発明」に当たらず,特許を受けることができないものというべきである。」

当時、東京高等裁判所知的財産第4部だった塚原裁判長(元知財高裁所長)の判決です。

 高裁かつしっかりした判事なので未完成発明の論説には載せるべき事例であると考えます。


ただし、未完成発明というのは難しいようです。下記に認めない3例を載せます。

 

平成24(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成25年03月19日 知的財産高等裁判所

訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲に記載がなくても,当業者は構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の目的,技術的性格に従って,1)ガラススライドの大きさ,2)温度・湿度の調節及びこれに伴う空気の流れの制御方法,3)相対湿度を適宜選択することができ,試験条件いかんで試験結果が一定しないわけではないから,訂正発明1ないし34が未完成の発明であるとはいえない。したがって,甲第5,第6号証の試験結果を根拠に,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の試験結果が一定しないなどとして,訂正発明1ないし34が未完成の発明であり,特許法29条1項柱書の「産業上利用することができる発明」に当たらないとした審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由1は理由がある。

 

【特許請求項1】

「溶液Aの0.3mlをガラススライドに付け,20°Cで24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,」

・(結晶の)大きさを明示する記載は存しない。

・特許発明の範囲中に「ガラススライド」の大きさを明示した記載がない。

ことから未完成発明と主張したが認められませんでした。

他にも2件、事件番号のみ載せておきます。

 

平成20年(ワ)第14858号特許権侵害差止請求事件

「本件発明1ないし4の技術内容は,当業者が反復実施して「画素電極のステップカバレージが向上する」という効果を上げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていないとはいえないから,特許法29条1項柱書の「発明」に該当しないとの被告の主張(無効理由1)は,その前提を欠き,理由がない。」

とされ、未完成発明ではない一例です。

 

平成25年(行ケ)第10062号 審決取消請求事件

一連の切り餅事件のひとつ

本件発明が未完成で,特許法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないものということはできない。

とされ、未完成発明ではない一例です。

 

ちょっと面白い所では引例が未完成発明だから引例たり得ないという主張

下記以外にも散見されましたが、H20年以降ではほぼ認められていないので強い主張ではないようです。

 

平成27年(行ケ)第10095号 審決取消請求事件

では引例が未完成発明だから引例たり得ないという主張を行っていますが認められていません。

 

平成25年(行ケ)第10268号 審決取消請求事件

引用例2には,「除染用の洗浄液として水素水を用いること」の開示が有り

「従来技術よりも優れた効果を奏しないからといって,未完成発明であるとはいえないことは明らか」

という記載と共に引例2を引例として認める。

 

<熊の論説に対する検証>

特許判例百選[第5版]に載っている未完成発明の論説について

中身は置いておいて、事件番号と引用文献のみ確認しました

 

平成ひと桁代が最新の判決しか記載がなく、

それも源著の吉藤先生がご存命の時期のモノが引用元ばかり

新しいのは、同僚の本の定義をちょこっと引用と、最新の審査基準を抜き出しただけ、

学者ならもう少し仕事したら?と思ってしまうのは、

他の判決の解説が素晴らしいからですね。

 

なお今回の上記の記載のための作業内容は半日かけずに

「知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェック」のHPで発明の該当性を確認

http://www.furutani.co.jp/matsushita/001/

最高裁判所のDBで「未完成発明」を検索し、H20以降を確認

でこれぐらいはヒットしました。

学者ではなくても、実務をする人間が片手間でも見つけれるものです。

旧法の最高裁判例に、20年以上前の判決を付けても裁判所でどこまで認められるのか疑問です。そこを紐付ける論理付けを百選では期待して読んでいるいち読者としては、

この判例に対しては残念でした。

 

審査基準がメインならばそれこそ、この最高裁判決が要らないことになりますから

最新にアップデートしたことが売りの百選なので、残念ですね。


まあ知財高裁の歴代所長やベテラン弁護士の論説はためになるので103/104ならお買い得です!

 

<「未完成発明」訴訟での主張について>

 

通常、「未完成発明」(特許法29条1項柱書き)はセットで36条違反の

サポート要件違反(同条6項1号)

実施可能要件違反(同法36条4項)

が原告からの主張に付きます。

 

あまりにもセットでふたつの区別が付きづらいですが、審査基準でも違うものであると説明しています。

 

実施可能要件は、当業者が請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明に必要な事項を明確かつ十分に記載することについての記載要件である。

サポート要件は、(公開されていない発明について特許権が付与されることを防止するため、)特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることについての記載要件である。

出典;第 II 部 第 1 章 第 1 節 実施可能要件 P10より、なお(カッコ内)は一部追記

 

審査基準だと、特許要件の29条1項柱書で下記のように例示されているのが未完成発明に最も近しい記載です。

3.1.3 実際上、明らかに実施できない発明

理論的にはその発明を実施することが可能であっても、その実施が実際上考えられない発明は、「実際上、明らかに実施できない発明」に該当する。

例:オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐために、地球表面全体を紫外線吸収プラスチックフイルムで覆う方法

 

訴訟で使う際にも、未完成発明(特許法29条1項柱書き),実施可能要件違反(同法36条4項),サポート要件違反(同条6項1号)及び明確性要件違反(同項2号)の各無効理由をセットにして説明するため、未完成発明を単品で持ち出す必要性は疑問です。

 

なお29条1項柱書といえば、最近はあまり見ませんがコンピュータに関するCS関連発明や

自然法則を利用した技術思想であるとした審決に対する判断が良くありますが、H20以降では

・仮名文字表記」と「ローマ字」表記の切り替え×

・心理学的な法則×

・カレンダーの発明×

・人間の筋力増強方法×

など単なる精神活動,数学上の公式,経済上の原則,人為的な取決めにとどまるものがありました。


そういえば、他の記事でもみた

「いきなりステーキ」の提供の仕方について、異議申立では発明でないと判断されましたが、知財高裁はこの審決を取消しました。

 

最後にCSの例

平成20(行ケ)10151 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年05月25日 知的財産高等裁判所

知財高裁がCS関連発明について、自然法則を利用した技術思想であるとした審決を維持。飯村判事が積極的に認める判断を初めてしました。

 と前掲の知財みちしるべに書かれており、飯村コートの面目躍如ですね。


熊に対する感情から探した未完成発明。感謝は未だにこれっぽっちもありませんが、少しはあの日考えていた弁理士に近づけたのか

偏屈ジジイになっただけか、後者の気がする…

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